ナマコとタコ
古事記にナマコが登場する説話がある。
アメノウズメが魚たちを集めて「ニニギノミコトに仕えるか」と問うと、口のないナマコは答えられなかったので怒ったウズメに小刀で口を裂かれ、それ以来ナマコの口は割れている…という内容だ。
古事記は「海鼠」と書いて「コ」と読んでいる。
元々「コ」という名前であった証拠が「コノワタ(コの腸)」や「コノコ(コの子)」という言葉である。
「調理していない野生のコ」として「ナマコ(生コ)」と変化したようだ。
ナマコは棘皮動物門に属する無脊椎動物で、ウニやヒトデと同じ群ではあるが身体が柔らかいという特徴がある。
日本人はナマコを"生で"食す世界でも珍しい民族で、大陸の漢民族や征服遊牧民族らは「茹でて乾燥させたナマコ」を"海参"(いりこ)として珍重する。
支那の歴代王朝の民族達は世界各地の干した珍品…フカヒレやウミツバメの巣やらを非常に好んで金銭に糸目がない。
余談だが四鰓鱸(ヤマノカミ)の干物が古代中華で珍重され、乾燥四鰓鱸を戻したものを包丁でカットする専門の料理人がいて妙技を競っていたと文献に残っている。(→オコゼ・ヤマノカミの語源参照)
現代でも干しナマコの需要が多いため、日本でナマコが高騰し密漁や漁業権などで問題となっている。
ルアーでたまにナマコがフックに引っかかって来る時があるが、そっとリリースしてSNSなどにはアップしないようにしよう。
さてそもそもなぜ「コ」と命名したのか。
それはもう古すぎて分からない。
古事記を編纂する時代よりも遥か以前に昔話としてナマコの話が成立した訳なので、縄文時代か弥生時代、それくらい古い命名だろう。
そして後の世になぜわざわざ「なま」と強調したのかが謎だ。何か訳があるはずだ。
さてタコの語源を調べてみよう。
ネットで調べると「多股(たこ)」だからという説が語られているが、多も股も音読みなのに漢語を和語に逆輸入する意味がないので俗説だろう。
大陸の漢民族は"蛸"という文字を使っているので、おそらく「海の蜘蛛」という認識だった。
丁度8本足だし。
日本人もたぶん「8本足の〇〇」と認識していたはずだ。
更に調べると「た」は「手」の古語なのでタコのタは「手」であるという説がある。
「手綱(たづな)」「御手洗(みたらい)」「掌(たなごころ)」など、現代にも残っている。
おそらく古代日本人は、海底に蠢めく軟体動物をまとめて「こ」と呼んであまり区別をしてなかったかもしれない。
ナマコもタコも同じ「こ」の仲間として。
しかし弥生時代に素焼きの壺を海底に沈めてタコを獲るタコツボ漁が発明されて大量にタコを食べるようになって、「手のあるコ」として「たこ」と呼ぶように変化したのだろう。
それに伴ってナマコを「生コ」と区別して呼ぶ必要に迫られた。
それならナマコの謎はスッキリ解かれるのだ。
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