アジ

「アジ」はサビキ釣りで堤防でのんびりファミリーフィッシングでお馴染みの魚だ。

しかしルアーのライトソルト界では、”アジング”と称して異常なほど皆が情熱を持って追うターゲットとなっている。

アジをルアーで狙う面白さ…よく「ゲーム性」と呼ぶ概念で語られるが、要するにアジは群れを成した回遊魚で、捕食活動や移動など、性質が”群れる魚”そのものなのだ。

ポイントや潮周りによってよく釣れたり釣れなかったり、頑張ってアタリに慣れれば数釣りも可能。

ほどほどに難しいので飽きずにずっとロッドを振っているのである。


かつては大魚として沖合巻き網漁業の主要であったが、年々漁獲量は減少し人気は養殖魚や輸入品にとって変わりつつある。

しかし脂の乗ったアジは抜群に美味く何物にも代えがたい。

漁獲されたアジはフライや干物など加工品にもされるが、やはり新鮮な良い魚体が手に入れば刺身が絶品。

釣りたてを適切に血抜きや氷締めで処置したアジを堪能できるのは、釣り人の特権である。


さて美味しいアジであるためか、アジの語源は広く「味が良いからアジ」となっている。

江戸時代の新井白石の書物『東雅』(1717)「或人の説く鰺とは味也、其の味の美をいふなりといへり」から一般に広まり定説のようになった。

しかし味の良い魚は他にも沢山いる。

生き物に命名するにはその生態に相応しい名前にするという大前提には当てはまらない。

アジングに情熱をかける筆者としては「味が良い説」には全く納得できない。

それではアジに似た名前の植物が2つあるので参考にしてみよう。


アジサイ(紫陽花)は日本原産のガクアジサイと園芸用に品種改良したホンアジサイを指す。

原種のガクアジサイは、花序の周りに萼が発達した装飾花を持つが、改良種であるホンアジサイは全て装飾花に変化し花序が球形の「手毬咲き」となる。

アジサイという植物の語源は諸説ある。

「藍色が集まったもの」を意味する「集真藍(あづさあい/あづさい)」からという説や、山本章夫『万葉古今動植物正名』の「集まって咲くもの」の「集咲き(あづさき)」という説が有力だ。

どちらにしても、アジサイの装飾花が集まって球形となる大きな特徴を捉えていることが分かる。

「集づ(あづ)」という言葉がアジサイのアジの語源となっている。


アズキ(小豆)は野生種ヤブツルアズキの栽培種であるマメ科の植物だ。

東アジア地域周辺で栽培化されたとされ、日本では縄文時代から各地で栽培されていたことが分かっている。

なので「アズキ」は日本古来の言葉である大和言葉だ。

同じく野生種ツルマメから栽培化されたダイズの大和言葉は単純に「マメ」であろう。

ダイズと比べて、莢に小さな実が5~10個ほど連なっているのがアズキの特徴である。

語源はいろいろ諸説あって、例えば『大和本草』に「アは赤、ツキ·ズキは崩れる」とある。

しかし『本草和名』には「赤小豆」を阿加阿都岐(アカアツキ)と記述があるので「ア」を赤とする説は赤が重複になるので間違っていると思う。

実際に栽培したりアズキの莢を持つとよく分かるが、実が幾つも連なり集まっている特徴をそのまま素直に表した「集づき(アヅキ)」が名前の由来であろう。


アジの生態を考えれば、「群れ集まって泳ぐ魚」として命名されたと考えるのが釣り人として最もしっくりくる。

何度も繰り返すが、アジングのゲーム性は「群れ」の行動原理…移動したり競争したり遊泳層をコロコロ変えたり…に起因する。

アジが群れを作るからこそアジンガーは喜怒哀楽を味わうのだ…アジだけにね!

釣り人語源考

魚の語源や海の地名の由来など 釣り人目線での語源考です。

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