キス
釣り人にとってキスは「海の女王」とか「砂浜の貴婦人」などと呼ばれている。
それは勿論釣りにおけるアタリなどの釣味の良さと、綺麗な白身で食べて非常に美味しい味わいの良さ、そして何よりその美しいパールホワイトのスマートな魚体、その3つを兼ね備えた正に「女王」に相応しい魚であるからだ。
俗説では「岸に寄る」からキシが訛ってキス…と言われているが、それこそ岸に寄る魚など何千と有るので全くの誤り。
和漢三才図会(寺島良安1712年)に「幾須吾(きすご)大なるものを吉豆乃(こずの)といい。」とある。
元々キスは「キスゴ」と呼ばれていた。
その語源は"生直(きすぐ)"という言葉からである。
現代の意味では「一本気なさま。生真面目なさま。真面目で堅苦しい。きまじめ。」と少し悪い意味合いになっているが、古語では「飾り気のないさま。純朴なさま。」と文字通りの意味であった。
すっと真っ直ぐに伸びた魚体。
美しく輝く真珠のような白い色。
腹も綺麗で処理も簡単、透明で血合も少ない素晴らしい白身。
これを「きすぐな魚」と呼んだ昔の人には得心がいく。素晴らしい命名だ。
余談であるが「痩せギス」という言葉がある。
この痩せギスの語源には二つの説があり、「痩せた鱚」から説と「痩せてぎすぎすしたさま」から説である。
日本語では、「コロコロ」とか「スベスベ」とか状態を表す擬態語に重語をよく用いるのだが、その慣用句の略語から名詞になる場合…「コソコソする泥棒」→「コソ泥」とか「ゴロゴロと寝る」→「ゴロ寝」とか、前に擬態語が来る法則がある。
もしも「痩せてぎすぎすした」を省略するなら「ぎす痩せ」にならなければならない。
痩せギスとは「痩せた鱚の様に、色白でアバラ骨が透けて見えるほど痩せた男」というのが本当だろう。
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